2015年産業衛生学会シンポジウム発表資料(渡辺洋一郎) 「精神科専門医の立場からの メンタルヘルス不調者の変遷と 職域内外の連携について」

第88回産業衛生学会 2015年5月16日

メインシンポジウムC
「職域におけるメンタルヘルスの潮流と未来展望」

「精神科専門医の立場からのメンタルヘルス不調者の変遷と職域内外の連携について」 渡辺 洋一郎

ストレスチェック制度に関する確認留意点、追加

●面接指導の対象となる労働者の要件が  「検査の結果ストレスの程度が高い者」で「検査を行った実施者が面接指導の実施が必要と認めた場合」  とされています。

この後半部分の解釈ですが、実施者(産業医、医師とは限りません、保健師、研修をうけた看護師、PSWも含まれます)が、面接指導の前に、高リスク者を選別することが可能とも読み取れます。場合によっては、診断的な意味合いも含まれてしまう可能性もあります。

この点につき、厚労省の担当者に確認しました。

このようにした意図は、恣意的に非常に高得点になるように記載した労働者を除外するような場合を想定したものであるとのことで、診断的な意味合いのある選別ではないということです。

しかしながら、高ストレス者の選定方法として、本文の中に、「評価点のみで選定する方法のほか、補足的に実施者または実施者の指名及び指示のもとにその他の医師、保健師、看護師若しくは精神保健福祉士または産業カウンセラー若しくは臨床心理士等の心理職が労働者に面談を行い、その結果を参考として選定する方法も考えられる。」  という文章があります。

この表現もあいまいで、医師による面接指導の前に、心理職などによる面談で、結果的に病的かどうかなど診断的意味合いのある選別が行われることもありうると思います。

厚労省としては、「ここでいう面談は、あくまで補足的なもので、面接指導の対象となるかどうかの判断はあくまで「実施者」(心理職は含まれません)が行い、事前の面談は実施者が判断する参考である」ということです。

 

●ストレスチェックの実施方法として以下の記載があります。   「医師による面接指導が必要とされた者に対して、実施者が申し出の勧奨を行うとともに、結果の通知を受けた労働者が相談しやすい環境を作るため、保健師、看護師または心理職が相談対応を行う体制を整備することが望ましい。」

ここで、「心理職」という言葉が出てくるのですが、心理職のできることは何か、ということがあいまいです。  この点につきましても確認しました。

結局、申し出の勧奨ができるのはあくまで実施者のみですから心理職は不可ということです。

「相談対応を行う体制を整備する」というのは、医師による面接指導とは別の話です。「結果の通知を受けた労働者・・」というのは、ストレスチェックの結果の高リスク者に限らず、「ストレスチェックを受けた全労働者を対象として、相談を希望するものがあれば相談できる体制を整えなさい」ということだそうです。したがって、心理職が面接指導の勧奨ができるということではないということです。

 

ストレスチェック制度実施に向けて今後の予定

3月24日、労働政策審議会安全衛生分科会において、省令案要綱について妥当である旨の答申がでました(先の省令案です)。

この答申を受け、行政の方で手続きを進め、4月下旬に省令を公布する予定で、同時に指針も公示の予定とのことです。

◆今後の予定

・4月下旬   省令の公布、指針の公示(予定)

・5月下旬~  産業保健総合支援センターにおける医師、保健師等向け研修会の実施

・6月頃    ストレスチェックの分析・集計プログラム(暫定版)の公開(ポータルサイト「こころの耳」にて)

◆ストレスチェックの分析・集計プログラム(暫定版)がどの程度のプログラムになるか不明ですが、一応厚労省の出すマニュアルにそった範囲での運用は可能なものになる予定とののこと。

ストレスチェック制度の施行に伴う省令案です。「ストレスチェック」産業医の職務に追加です!

労働安全衛生法の一部を改正する法律の施行に伴う厚生労働省関係省令の整備に関する省令案の概要

1.ストレスチェック制度の概要

常時使用する労働者に対して、医師、保健師等による心理的な負担の程度を把握するための検査(ストレスチェック)の実施を事業者に義務付けるもの(労働者50人未満の事業場については当分の間努力義務)。

検査の結果、一定の要件に該当する労働者から申出があった場合、医師による面接指導を実施することを事業者の義務とするもの。

2.改正の概要 ※労働安全衛生規則の改正

(1)産業医の職務

産業医の職務に、ストレスチェックの実施、ストレスチェックの結果に基づく面接指導の実施及び面接指導の結果に基づく労働者の健康を保持するための措置に関することを追加。

(2)検査の実施等に係る規定の整備

① 実施時期と検査の内容

事業者は、常時使用する労働者について、1年以内ごとに1回、定期に、次の事項について検査を行うこと。

・ 職場におけるストレスの原因に関する項目

・ ストレスによる心身の自覚症状に関する項目

・ 職場における他の労働者による支援に関する項目

② 検査の実施者

医師又は保健師のほか、厚生労働大臣が定める一定の研修を修了した看護師又は精神保健福祉士とすること。ただし、検査を受ける労働者について、解雇等の直接的な人事権を持つ監督者は、検査の実施の事務に従事してはならないこととすること。

③ 結果の保存等

事業者は、労働者の同意を得て、検査の結果を把握した場合には、当該結果の記録を作成し、5年間保存しなければならないこととすること。それ以外の場合には、事業者は、検査を行った実施者による検査結果の記録の作成及び検査の実施の事務に従事した者による当該記録の保存が適切に行われるよう、必要な措置を講じなければならないこととすること。

④ 結果の通知

検査結果は、検査の実施者から、遅滞なく、労働者に通知されるようにしなければならないこととすること。

⑤ 同意の取得

検査の結果を事業者に提供することについての労働者の同意の取得は、書面又は電磁的記録によらなければならないこととすること。

(3)検査結果の集団ごとの分析等に係る規定の整備

事業者は、実施者に、検査の結果を一定規模の集団ごとに集計させ、その結果について分析させるよう努めるとともに、当該分析結果を勘案し、必要があると認めるときは、その集団の労働者の実情を考慮して、当該集団の労働者の心理的な負担を軽減するための適切な措置を講ずるよう努めなければならないこととすること。

(4)検査結果に基づく面接指導の実施等に係る規定の整備

① 検査結果に基づく面接指導の対象となる労働者の要件

検査の結果、ストレスの程度が高い者であって、検査を行った実施者が面接指導の実施が必要と認めたものとすること。

② 面接指導の申出

労働者が検査の結果の通知を受けた後、面接指導の申出を遅滞なく行うとともに、事業者は、申出があったときは、遅滞なく、面接指導を実施しなければならないこととすること。また、実施者は、面接指導の対象となる労働者の要件に該当する労働者に対して、面接指導の申出を行うよう勧奨することができることとすること。

③ 医師の確認事項

医師は、面接指導を行うに当たっては、当該労働者の勤務の状況や心理的な負担の状況等を確認することとすること。

④ 結果の保存

事業者は、面接指導の結果の記録を作成し、これを5年間保存しなければならないこととすること。

⑤ 意見聴取

面接指導の結果に基づく医師からの意見聴取は、面接指導が行われた後、遅滞なく行わなければならないこととすること。

(5)その他の事項

常時50人以上の労働者を使用する事業者は、1年以内ごとに1回、定期に検査及び面接指導の実施状況等について、所轄労働基準監督署長に報告しなければならないこととすること。

ストレスチェック制度に関する情報(質問に対する回答)

◆国家公務員に対するストレスチェックは?

国家公務員は労働安全衛生法が適応されない。しかし、人事院がストレスチェックを行うことを決めており、結果として国家公務員もストレスチェックをするということです。

◆高ストレス者の選定方法

健康調査票のB群の合計点が非常に高い者、B群の合計点がある程度高くてA群とC群の合計点の非常に高い者  の2領域から選定するという従来の方法に加え、

合計点ではなく、個人プロフィールにおける尺度の合計点(あるいは平均点)を利用して選定する方法(上記と同じく2領域から選ぶ)も推奨されることになりました。

*合計点方法では、高ストレス者と判定されてもその数値がどこにも現れず、本人が納得しにくい、また、B群の質問29問には身体愁訴が11問含まれ、身体愁訴の多いものは合計点法ではB群の得点が高く出やすい、一方尺度法では、身体愁訴は6尺度中のひとつの尺度としてまとめられるので、身体愁訴の影響度が下がる。

◆組織のデータ数が10人未満の場合、その結果を事業主に提供するためにはその組織の全員の同意がいるとされているが、その同意をとる時期は?

個人プロフィールにおける高ストレス者のデータを事業主に提供する際の本人同意は、結果が出た後出なければならないこととされている。

しかし、組織診断のデータが10人未満の際の事業主へのデータ提出の同意の取得時期に関しては指針に書かれていません。したがって、結果が出た後でなくてもいいということになります。